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HIVを完治させる術は発見されていない?

2020年02月05日
頭を抱える男性

1980年代に米国でエイズの病原体がHIVであることが見つかって以来、1990年代後半に抗HIV薬が開発されるまでの間は治療方法がありませんでした。治療方法が開発されるまではエイズは死の病として恐れられていて、多くの人が発病して命を落としていました。現在は数種類の抗HIV薬が開発されており、ウイルスの増殖を抑制することでエイズの発症を防ぐことができます。

今はHIVに感染しても、早期に発見して適切な治療を受けて薬を服用し続ける限りはエイズで命を落とすことはありません。治療薬を服用して発症を防ぐことが可能でも、体内のウイルスを除去してエイズを完治させる術はいまだに発見されていません。そのため治療を中止したりウイルスが薬剤耐性を獲得すると、エイズが発病してしまいます。抗HIV薬はウイルスの増殖を抑制するための薬であり、体内の病原体を死滅させて除去するための薬ではないからです。

エイズを完治させることができない原因は、HIVは変異を起こしやすいという性質を持っていることです。人間を含めて多くの生物の遺伝子情報はデオキシリボ核酸(DNA)に記録されていますが、リボ核酸(RNA)が読み取ってから細胞内でタンパク質を合成する作業が行われます。RNAを通してデータの読み込みをすることで、大切なDNAの情報が簡単に書き換えられないような仕組みになっています。

HIVを含めてレトロウイルスと呼ばれるウイルスはDNAを持っておらず、RNAにのみ遺伝情報が記録されています。RNAのコピーを作成する際は読み取りミスが起こりやすいので、記録されているデータが書き換えられやすくなります。DNAを持たないレトロウイルスは短期間で情報が書き換えられてしまうため、すぐに薬剤耐性を獲得してしまいます。このため、長期間にわたり効果を発揮し続ける抗ウイルス薬の開発が難しくなります。

変異を起こしやすいことに加えて、HIVはメモリーT細胞の内部に潜み続けることも完治が困難な理由のひとつです。メモリーT細胞とは、過去に罹患した感染症の病原体の抗体を記録するための細胞です。例えば、はしかや風疹などが発症して完治すれば病原体を不活性化するための抗体に関する情報(免疫)が何十年間も保存されます。次に同じ病原体に感染しても、メモリーT細胞の情報を基に抗体が生成されるので発病しなくなります。HIVはメモリーT細胞に感染するので、体内から完全に排除させることが困難です。

海外には極少数ながら、先天的にHIV(1型)が寄生できないような免疫細胞を持つ人がいます。ウイルスが免疫細胞に侵入して増殖する際に、細胞の表面にあるCCR5受容体を利用します。北ヨーロッパ地方で極少数の人は遺伝的に免疫細胞のCCR5受容体が作れないため、エイズに罹ることがないことが知られています。

海外では遺伝的にCCR5受容体を生成することができない人の幹細胞を移植することで、体内のHIVを完全に排除して完治に成功したケースが2例だけ存在します。幹細胞移植は白血病や悪性リンパ腫の治療に用いられる方法で、移植に失敗すると命を落とすリスクがあります。CCR5受容体を持たない極少数の人の幹細胞を移植する方法はリスクが大きい上にドナーが限られるので、一般的な治療法として用いることはできません。

現在は3種類以上の抗HIV薬を毎日同じ時間に服用し続けることで、エイズの発症を抑えることが可能です。ただし10回中1回でも薬を飲み忘れるとウイルスが薬剤耐性を獲得してしまい、二度と同じ薬が効かなくなってしまいます。使用可能な抗HIV薬の組合わせは数種類しか存在しない上に体質によっては強い副作用が出てしまうので、たった1回でも薬を飲み忘れるだけでも命を失う危険があります。HIVに感染しても治療薬を服用してエイズの発症を抑えることが可能ですが、完治させることができないので生涯にわたり薬を飲み続けなければならなくなってしまいます。